今回ご紹介するのは、枕草子です。
平安時代を代表する女流作家・清少納言が書き上げたこの作品は、1000年経った今でも人々に広く知られています。
しばしば清少納言の「自慢話」とも言われてしまうエピソードも多いですが、そこに隠れた彼女のキラリと光るセンスとは!?
- 『枕草子』の名前の由来について
- 有名な冒頭部分の内容について
- 教科書に出てくる主な箇所の内容について
今回はこのような点を特に詳しく見ていきますので、ぜひご注目ください!
目次
枕草子とは?
『枕草子』は、平安時代中期に執筆された随筆です。
紫式部による『源氏物語』とともに平安時代を代表する文学作品であり、また、
- 鴨長明の『方丈記』
- 吉田兼好の『徒然草』
と並んで「日本三大随筆」と称されます。
それでは、この『枕草子』の作者について見ていきましょう。
作者
『枕草子』の作者は清少納言です。
彼女は一条天皇の皇后である中宮定子に仕え、そうした宮廷での生活や観察した身の周りの自然などを題材として、『枕草子』を書き上げました。
清少納言のセンスと鋭い観察眼が、この作品を傑作たらしめていると言えるでしょう。
なお、『源氏物語』の作者である紫式部とは仲が悪かったという話がありますが、実は両者は面識がなかったようなので、虚偽だとされています。
次に、『枕草子』の書名の由来に迫ります。
枕草子の意味
『枕草子』の書名の由来は、実は現在も判明には至っていません。
- 枕元に置いて備忘録とする草子(仮名書きの物語・日記・歌、綴じてある本)である説
- 枕のように他人に見せない秘蔵の草子である説
など、さまざまな説が出ています。
また、中国・唐の『史記』が書写されたことを受けて、「しき」(四季)を枕にした作品を書くことにしたという説もあります。
『枕草子』が「春はあけぼの」から始まるのも、最初に四季を取り上げたかったからだ、ということになります。
次の章から、そんな冒頭部分について見ていきます。
冒頭が有名
『枕草子』の冒頭は、前章で少し触れましたが、「春はあけぼの」から始まります。
この冒頭部分は『枕草子』のなかでもとりわけ有名な部分であり、学校の教科書にも取り上げられていることから、聞いたことのある人もいるでしょう。
冒頭の内容を簡単に解説
『枕草子』は、
- 標題を挙げてそれにふさわしい対象を集めた「類聚章段」
- 日常生活や自然観察による「随想章段」
- 中宮定子周辺の宮廷生活を振り返った「回想章段」
から成るとされています。
これからご紹介する冒頭部分は分類の仕方が曖昧であり、「随想章段」に入るとされているものの、異論も出ています。
これはこの冒頭部分が、
- 四季折々の自然を観察して書かれたものである
- 清少納言にとってそれぞれの四季に「ふさわしいもの」を紹介する形でも書かれている
という二つの理由があるからでしょう。
それでは、この冒頭部分の具体的な内容を見ていきましょう。
春
冒頭部分では、四季それぞれの風情のある時間帯とものを紹介しています。
まずは春について書かれた箇所の本文を見ていきましょう。
- 「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。」
これは、春はあけぼのの頃が良いとし、徐々に白くなっていく、山に接している空が少し明るくなって、紫色のかかった雲が細くたなびいている時の景色が良い、ということを述べています。
「山ぎは(山ぎわ)」とは、山に接している空のことを指します。
次に、夏の項を見ていきます。
夏
次に、夏の部分を見ていきます。
- 「夏は夜。月のころはさらなり、やみもなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。」
夏は夜が良い、と言っています。
満月の時はもちろんのこと、
- 新月の時も、ほたるが飛びちがっている風景が良い
- 一匹二匹がほのかに光って飛んでいくのも良い
としています。
また、雨が降るのも趣があるとしています。
次に秋について見ていきましょう。
秋
秋の部分は以下の通りです。
- 「秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、からすの寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入りはてて、風の音、虫のねなど、はたいふべきにあらず。」
秋の項目は比較的長いです。
秋は夕暮れが良く、夕日がさして山の端に近くなっている時に、からすがねぐらに帰ろうとして飛び急いでいる光景に風情があるとしています。
また、
- 雁などが連なって飛んでいるのが非常に小さく見えるのも良い
- 日が暮れてからの風の音や虫の鳴き声ももちろん趣がある
としています。
最後に冬の項を見ていきます。
冬
最後に冬の部分を見ていきましょう。
- 「冬はつとめて。雪の降りたるは、いふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭もてわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も白き灰がちになりてわろし。」
冬は早朝が良く、雪が降っている朝はもちろんのこと、霜がとても白く降りた朝も良いとしています。
また、そうでない朝でも、寒い中で火を急いでおこして、炭を持って運んでまわるのも冬らしいと述べています。
ただ、昼になって寒さが和らいできた時には、火桶の火も白く灰がちになってしまい、良くないと言っています。
「つとめて」は早朝のことです。
次の章からは、冒頭以外の『枕草子』の主なパートについて見ていきます。
主なパートを簡単に解説
前述のように、『枕草子』の内容は主に
- 「類聚章段」
- 「随想章段」
- 「回想章段」
に分けられます。
今回は、最初に「~もの」という言い回しから始まる「類聚章段」を、次に清少納言が宮中で体験したことが書かれた「回想章段」を見ていきます。
まずは「すさまじきもの」です!
すさまじきもの
「すさまじきもの」は「興ざめなもの」といった意味です。
ここで列挙されている「すさまじきもの」を以下に挙げていきます。
- 昼に吠える犬
- 春の網代
- 3・4月の紅梅色の着物
- 牛が死んでしまった牛飼い
- 赤ん坊が亡くなってしまった産屋
- 火をおこしていない状態の炭櫃や井戸裏
- 博士(官職のひとつ)が続けて女の子を産ませたこと
- 方違え(目的地の方角に障りがある場合に、その前に方角の良い方に一泊してから目的地に向かうこと)に行ってもおもてなしをしないところ
現代にはあまり馴染みのない事柄も多いとはいえ、これだけいろいろなことに不満を覚えていたのですね。
本文は「すさまじきもの」としてまた別の話も取り上げています。
それは、
- 人が地方からよこした手紙に贈り物が添えられていない
- 自分が立派に書いた手紙が、相手に渡されず無残な姿で戻ってきた
このようなことだと述べています。
せっかく丹精込めて書いた手紙がヨレヨレの状態で手元に帰ってきたら、それは興ざめしますよね。
ちなみに、京から届く手紙は、京で起きていることを知ることができるため、贈り物がなくても素晴らしいものだとも述べています。
次に、「うつくしきもの」を見ていきます。
うつくしきもの
「うつくしきもの」は「かわいらしいもの」という意味で、以下が挙げられています。
- 瓜に描いてある子どもの顔
- ねずみの鳴きまねをするとスズメの子がやってくる様子
- 小さな子どもがほこりを見つけて、つまんで大人たちに見せる様子
- 髪を肩の高さで切りそろえた子どもが、目にかぶさる髪をかきのけずに、首をかしげて何かを見ている様子
- 殿上童が美しく着飾らせられて歩く様子
- 子どもを抱いて遊ばせているうちに、しがみついたまま寝たこと
子どもに関係することが多く挙げられていますね。
情景が浮かんでくるようで、読んでいるこちらも幸せな気分になってきますね。
本文は「うつくしきもの」をさらに挙げています。
- 人形遊びの道具
- とても小さい蓮の浮き葉
- 葵のとても小さいもの
- 着物の丈が長くて袖を紐で結びあげた2歳くらいの子どもが、這って出てきた様子
- 男の子が、子どもらしい声で読書をしている様子
- 鶏のひながやかましく鳴いて、人の前後に立って歩く様子
- 雁のひな
- 瑠璃の壺
前章で取り上げた「すさまじきもの」よりも多くの事柄が列挙されていますね。
次に、「ありがたきもの」について見ていきましょう。
ありがたきもの
「ありがたきもの」は「めったにないもの」という意味であり、ここでは現代使われている意味とは異なっています。
「ありがたきもの」としては、以下が挙げられています。
- 舅にほめられる婿
- 姑に良く思われる嫁
- 毛がよく抜ける銀の毛抜き
- 主人のことを悪く言わない従者
- 少しの癖もない人
- 少しの欠点もない人
- 宮仕えして同じ所に住む人で、最後まで人に隙を見られないこと
- 物語などを書き写す時に、本に墨をつけないこと
- 男女や女同士で、約束を固くして付き合っている人で、最後まで仲の良い人
前半部分は実感が湧きますが、最後の項目はどうでしょうか、少し意外な感じもしますね。
次は、「うれしきもの」です!
うれしきもの
「うれしきもの」は、現代語と同じく「うれしいもの」という意味で用いられています。
それでは、その内容を見ていきましょう。
- 読んだことのない本の第一巻を読み、続きを読みたいと思っていたところで、続きの巻を見つけだした場合
- 人の破り捨てた手紙を継ぎ合わせて、文の続きを読むことができた場合
- 良くないことの前兆なのかと思われる夢を見た後に、それはなんでもない夢だよと解釈してもらったこと
- 女房が大勢いる中で身分の高い人がお話をする際、自分と目を合わせてくれたこと
- 離れた所にいる大切な人が病気になったと聞いて、嘆いているところに、良くなったという知らせを受けること
- 好きな人が人に褒められたり、高貴な方が惜しみなく褒めてくれること
- 自分の歌が世の評判となって、誰かの文章に書き留められること
- 自分の知らない古い歌を、他の人から聞いて知ること
以上のような事柄が「うれしきもの」に挙げられています。
手紙でなくても、漫画などで似たような体験をした人はいるかもしれません。
今挙げたのが前半部分で、これから後半部分に入っていきます。
- 良い紙を手に入れた時
- 立派な人に歌の上の句や下の句を聞かれ、とっさに答えることができた時
- 急な用事で必要なものを見つけ出した時
- 人との競争で勝った時、また得意顔になっている人をやりこめた時
- 憎たらしい人が不幸な目に遭った時
- 着物を打たせにやって、きれいに出来上がってきた時
- 長い間病気になっていたのが治ってきた時
- 女房達が大勢いるなかで、中宮が自分を呼び、他の女房が道を開けて、中宮の近くに召し入れられた時
以上が後半部分の内容になります。
「憎たらしい人が不幸な目に遭った時」などを始め、人間らしさが垣間見えるようで面白いですね。
ご覧いただいたように、この「うれしきもの」の段はとても長いものとなっています。
次の章は、「にくきもの」です。
にくきもの
「にくきもの」は「しゃくに障るもの」という意味です。
それでは、その内容について見ていきましょう。
- 急用がある時にやってきて長話をする客
- 硯に髪が入ったまま墨がすられたり、墨の中に石が混じっていて音をたてたりすること
- 病気の人のために、祈祷を行う修験者を探すが、なかなか見つからず、やっと見つけても眠たげな声であること
- たいしたこともない人が得意顔でしゃべること
- 火桶の火やいろりなどに向けて手をしきりにひっくり返して、手のひらのしわを押し伸ばすなどしている人
- お酒を飲んでわめき、口をまさぐり、髭のある者はそれをなで、杯を人にとらせる様子
- 人を羨ましがって自分の身の上を嘆いたり、聞きかじったことをはじめから知っていたかのように得意そうに話したりする様子
- 話を聞こうとすると泣いてしまう子どもや、騒がしく鳴くカラス
- 人目につかないようにやってきた人に気づいて吠える犬
- 家の人に見つからないように隠した人がいびきをすること
- すだれに頭をつっかえて音をたてること
- 引き戸を荒っぽく開け閉めすること
- 眠たくて横になっているところに、蚊が顔のあたりを飛び回っている時
- きしきしと音をたてる牛車に乗って歩き回る者(自分が乗っている時はその牛車の持ち主も)
- 世間話をしている時に、出しゃばって一人でしゃべる者
ここでもたくさん挙げられていますね。
眠たい時に近くで飛び交っている蚊や、数人で会話している時に出しゃばってくる人など、現代でもよく起こりうることですね。
音に関する「にくきもの」は、現代でいえば黒板をひっかく音のようなものでしょうね。
この段もかなり長く、まだ続きがあります。
- 子どもをかわいがっておもちゃをあげると、いつも来るようになって散らかしていくこと
- 会いたくない人が来たため寝たふりをしているのに、召使いがゆすり起こそうとすること
- 新入りが先輩を差し置いて仕切り始めること
- 付き合っている男性が、過去に付き合っていた女性を褒めること
- くしゃみをした後に呪文を唱える人
- ノミが着物の中で踊り歩いたり、犬が一斉に長々と鳴き声をあげたりすること
- 扉や襖を閉めない人
「寝たふり」の項目に関しては本人が悪いという気もしますが、気持ちはよく分かりますね。
次の章では、「はしたなきもの」について見ていきます。
はしたなきもの
「はしたなきもの」は「きまりが悪いもの」という意味で用いられており、そこで挙げられているのは以下のものです。
- 他の人を呼んだのに自分だと勘違いして出しゃばってしまうこと
- 何気なく人の身の上を悪く言っている時に、それを子どもが聞いていて、本人がいるときにその子どもが口に出してしまうこと
- しみじみと心打たれて人が泣いている時に、気の毒だと思いながら涙が急には出てこないこと
- 喜ばしいことを見聞きするのに、真っ先に涙が出てしまうこと
これらも現代の私たちに共感できるものでしょう。
清少納言は「にくきもの」で「出しゃばること」を挙げているので、いざ自分がその行為をしてしまったらさぞきまりが悪かったことでしょう。
次の章では、「回想章段」のひとつ「中納言参りたまひて」について見ていきます。
中納言参りたまひて
「中納言参りたまひて」は『枕草子』の第102段です。
その内容を見ていきましょう。
中納言・藤原隆家が、素晴らしい扇の骨を手に入れたと言ってきます。
これだけ立派な骨なのだから、それにふさわしい紙を求めていたのです。
隆家いわく、人々が口をそろえて、見たことのないものだと言っているようで、清少納言はこれに対し、それは扇の骨ではなく、クラゲの骨なのではないかと言います。
すると隆家は、今の清少納言の発言を自分のものにしてしまおうと言って笑いました。
清少納言は、「見たことのないような骨」に対し、ありもしない「クラゲの骨」を持ち出すという気の利いたことを言ったのです。
隆家はこの発言を気に入り、自分の発言にしてしまおうと言ったのです。
このエピソードは、目上の人に感心されたという自分の自慢話と思われるかもしれないので、清少納言は隠しておきたかったのですが、周りの人が書け書けというので、仕方なく残したようです。
次のエピソードは、「宮に初めて参りたるころ」です。
宮に初めて参りたるころ
最後にご紹介するのは、「宮に初めて参りたるころ」の項です。
清少納言が初めて御所に奉公するようになった頃、御几帳の後ろに控えていると、中宮が絵などを取り出して見せてくれました。
肌寒い季節なので、中宮の手が美しい薄紅梅の色をしており、清少納言は見とれています。
中宮がいろんな話をしていくうちに、かなり時間が過ぎたので、中宮は清少納言に、早めに退出し、今夜は早く来るようにと伝えました。
帰ると外は雪が降っていました。
昼頃には部屋の主人(局の主)から、どうして籠もってばかりいるのか、中宮の元にそれほど出仕することを許されているのは、中宮がお気に召す理由があるからで、その心に背くのは見苦しい、と言われます。
清少納言は結局参上するのですが、その時に衛士たちの詰所に雪が積もっていたのを見て、しみじみと感じています。
このエピソードも、清少納言が中宮に好かれていたという「自慢話」のように思えますね。
それでも、中宮の手の美しさに感動を覚えているという描写から、清少納言の感性が感じられます。
次の章では、『枕草子』の漫画版作品をご紹介します!
枕草子を漫画で読むなら
『枕草子』を手軽に楽しむため、漫画版を読んでみるのも良いでしょう。
『まんがで読む 枕草子』(中島和歌子、2015、学研教育出版)は、そんな入門書として適しています。
この作品は、日記的部分に当たる「回想章段」をメインストーリーに据え、教科書で取り上げられる内容を中心に構成してあります。
『枕草子 まんがで読破』(バラエティ・アートワークス、2011、イースト・プレス)も、漫画作品としておすすめです。
私たちにより身近な「清少納言像」が見えてくることでしょう。
『枕草子』では「~もの」が多く出てくる「類聚章段」が比較的有名なため、漫画版でもこればかり出てくるのではと思われがちですが、これら2作品はその他の章段もきちんと取り上げており、バリエーションが楽しめるようになっています。
まとめ
いかがでしょうか。
それではもう一度、『枕草子』について振り返ってみましょう。
『枕草子』は平安時代の作家である清少納言の作品です。
清少納言は一条天皇の皇后である中宮定子に仕えました。
『枕草子』の書名の由来に関してはさまざまな意見があり、現在もはっきりしてはいません。
『枕草子』の内容は、標題を掲げそれにふさわしいものを集めた「類聚章段」、日常生活や自然を描いた「随想章段」、中宮定子周辺の宮廷生活を描いた「回想章段」に分類されます。
『枕草子』の中で特に有名と言えるのが、「春はあけぼの」から始まる部分であり、ここでは四季それぞれの風情のある時間帯と風物が紹介されています。
「すさまじきもの」や「ありがたきもの」など、「~もの」から始まる章段も有名であり、現代を生きる私たちにも共感できることが多く書かれていました。
「中納言参りたまひて」や「宮に初めて参りたるころ」などの「回想章段」では、清少納言の「自慢話」のなかに、彼女のセンスが輝いていましたね。
『枕草子』を漫画で楽しむ人のためには、『まんがで読む 枕草子』(中島和歌子、2015、学研教育出版)や『枕草子 まんがで読破』(バラエティ・アートワークス、2011、イースト・プレス)などがあります。
『枕草子』は古典の中でも比較的現代人に読みやすいと言われているので、一度原文も味わってみてはいかがでしょうか!